第9回 森里海連環学公開講座 に参加した学生の感想

時任 美乃理(地球環境学舎 修士課程1回)

 今回の森里海連環学公開セミナーが開かれたのは,ちょうど3ヶ月間の海外インターンシップ研修を終え,現場で得た問題点や疑問に向き合おうとしていた時期であったため,セミナーで議論された内容は,社会的,生態的,そして経済学的に自身の研究課題を捉え直すとても良い機会となった。
 特に印象に残ったのは,ドゥライアパ博士による講演である。中でも彼が主張していた,コモンズの管理において生態系サービスが生み出してしまう不釣り合い(mis-matches)の指摘は,コモンズの悲劇に異論を唱えたオストロムのコモンズ論にも一石を投じており,大変興味深いものであった。自然環境とヒューマンウェルビーイングの間にある関係性に注目していた点は,自分の研究においても視野の広がる新しい考え方であった。私は現在,タイ北西部に居住する少数山岳民カレン族の農村をフィールドに,持続可能な森林保全型農村に向けた生業導入や,小農村における生業選択について,農業経済学の視点から研究をしているが,ドゥライアパ博士の示した新しいコモンズの捉え方は,山岳小農村のエコシステムとそこに暮らす農民たちのウェルビーイングをとらえるヒントになった。ドゥライアパ博士は講演の中で,幾度となくダスグプタやオストロムの考え方に触れた。コミュニティにおける合意形成のしくみをはじめ,新しいコモンズを理解するためのフレームワークに関する議論は,ダスグプタが事例としているアフリカ地域だけではなく,日本の里山を含め世界各国の地域コミュニティに言えることであり,ドゥライアパ博士が示す気付きの一つひとつが,コミュニティのしくみを考察する際には大変重要な視点だと改めて感じられた。
 ボルネオ島マレーシアサバ州をフィールドとした調査に関する北山教授の講演では,持続可能な森林資源管理に関する問題点を森林伐採などの側面から理解することができた。私はタイをフィールドに研究を始める以前,同じくマレーシアサバ州にてツーリズムの研究をしていたこともあり,サバ州というフィールドの特異性や,森林保全の重要性についてあらかじめ理解があった分,森林保全システムの検討についてより興味深く感じた。サバ州は,首都クアラルンプールのあるマレー半島と違い,ボルネオ島に位置しており,生業の面でもあまり発達している地域ではない。エネルギー資源の産出地もなく製造業も未発達であるサバ州は,「マレーシアの中の発展途上地域」といえるだろう。今もなお,州の輸出総額の約7割がアブラヤシや木材製品であり,労働人口の半分が農林水産業に従事している。農産物を加工し生産する「アグロインダストリー」に依存してきたため,発展途上の段階から抜け出して,経済発展の次段階へと進んでいくことが困難な状況にあるのが実情だ。しかしながら一次林がまだ多く残っているのもサバ州である。北山教授のフィールド調査を基盤とした森林保全システムの研究は,まだ未開の地が多く残るサバ州という地において先鋭的な調査研究がなされており,システムへの問題定義や枠組みに関して大変参考になった。また同様に,フィールドでの調査方法をはじめ,様々な点で自身の調査にも活かしていきたい点が多く見受けられた。
 今回の森里海連環学公開セミナーでは,自分自身の研究と照らし合わせながら,問題の捉え方や調査の方法について学ぶことのできる,大変実践的なセミナーであった。

本間 友香里(地球環境学舎 修士課程1回)

 “The New Commons: Managing the Mis-Matches”というタイトルで発表されたドゥライアパ博士のプレゼンテーションはとても興味深いものであった。その中でも二つの不適合(Mis-Matches)として挙げられていた「価値と行動」,「制度間」における不適合が,私にとって最も関心が引かれる内容であった。前者の「価値と行動」の間に起こる不適合は,価値を正しく理解しなければ間違った行動を導くことになるというものである。世の中には物事の価値や程度を図る様々な指標が存在するが,その中で最も一般的に用いられているのが「貨幣」である。ビジネスの世界でも,公共の世界でも何か新しいことを始める際にその収支がまず確認され,それに対する評価が下される。その「貨幣」が中心となった社会で貨幣換算することが難しい「生態系サービス」を対等に評価することは困難である。最近では,貨幣換算することが難しいものをCVMやWTPといった評価法を用いて貨幣換算する取り組みも行われているが,生態系サービスの実態や,人間社会がそれらから受ける恩恵を理解している人が少ない状況では,その評価方法も人々を納得させる十分な説得材料にならないと思われる。さらにドゥライアパ博士も指摘しているように個人の持つ評価基準は,価値観や信条,利害によって影響を受け易い。またそれは公共の利益を追求する行政にも言えることで,政策実施の評価基準が真の価値ではなく,利害関係の調整によって決定されることも少なくない。このように価値が正しく理解されていたとしても,それ以上に周囲の影響をより強く受けることによって間違った行動に結びついてしまうこともある。そのため人間社会を良くするという位置付けで生態系サービスの重要性を人々が認識するというだけでは不十分であり,その先にある正しい行動を導くための制度や仕組みづくりが同時に必要であると考える。
 次に「制度間」における不適合であるが,これは環境における分野だけではなく全ての公共政策に共通して言えることではないかと感じた。特に日本では行政の縦割り体制が問題視されており,部門間の連携が求められている。環境問題をはじめ現代社会で問題とされている社会課題は,その要因や問題が複雑に絡み合っているため,一つの課題を断片的に取り出し対策を講じたとしても根本的な解決に繋がらないことが多い。時にはその内容が部門間で相反するものとなっている場合もある。問題の多様化や複雑化が進む現在,現状を包括的に捉えた方針を示し,それに沿った対策を個々の問題に示していくことが求められる。ドゥライアパ博士が示した二つの不適合は自然資源のマネジメント以外の分野にも言うことができそうだと感じたが,特に人によって価値観や評価が大きく異なってくる自然の生態系サービスについては,それの価値を分かりやすく示し,どれほどの価値を持っているかという理解と認識が十分される必要があると思った。

第9回 森里海連環学公開講座の詳細は、コチラ

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